第49回 あなたのコレステロール値は大丈夫?
最新の血中コレステロール目標値 (Update on Treatment Goals for Cholesterol)

テレビや新聞などの報道で、もうご存知の方も多いかも知れませんが、7月中旬に新しい血中コレステロールの目標値が発表されました。7月13日に発行されたアメリカ心臓協会(American Heart Association)の機関雑誌である「Circulation」(循環)に、過去3年間に発表された5つの大きな臨床研究に基づいた、新しいコレステロール治療指針が紹介されたのです。この中で、以前にも増して厳しい目標値が特にハイリスクの人に採用されたので、マスコミの大きな関心を集めることになりました。この新しい指針は、3年前に出された有名な、高コレステロール血症の治療指針である、ATPIII Report (Adult Treatment Panel III Report )=米国コレステロール教育プログラム・ 成人治療専門委員会第3報告を改訂したものです。

何が変わったか

この新しい指針の最も特徴的な点は、冠動脈疾患(虚血性心疾患とも呼ばれ、狭心症や心筋梗塞を含む)のリスクがより高い人は、悪玉コレステロール(LDL)の値を下げれば下げる程、主要な冠動脈疾患になる確率を下げることができる。そのために、コレステロールを下げる薬の使用を以前よりは積極的に行いましょう、ということでしょう。その結果、リスクの高い人のコレステロール目標値は以前よりずっと低く設定されるようになりました。

まず基本的なことから

血中コレステロール中の悪玉コレステロール(LDL)は、血管内の脂肪沈着を進め、血管を狭くし、その結果様々な虚血性疾患を起こす原因になります。これとは逆に善玉コレステロール(HDL)は血管内に沈着した脂肪層を掃除し、虚血性疾患の予防をしてくれます。心臓の冠動脈(心臓の筋肉に血液を送る血管)が狭くなると狭心症を起こします。そして血栓が詰まると心筋の一部が死んでしまう心筋梗塞になります。また心筋梗塞による心筋のダメージが大きいと、急性心不全や重症不整脈による突然死の原因にもなります。

悪玉コレステロールが高い場合と、善玉コレステロールが低い場合は、どちらとも冠動脈疾患のリスクになります。冠動脈以外の動脈でも同様のことが起こり、脳の動脈で起これば虚血性脳卒中(脳血栓)、大腸の動脈で起これば虚血性大腸炎といった具合です。冠動脈疾患は、癌と並んで2大死因の一つですので、影響を受ける人が多く、社会的にも予防・治療が極めて重要になってきます。

冠動脈疾患リスク

前述の「第3報告」で定義されている冠動脈疾患リスクファクター(危険因子)とは、

(1) 喫煙

(2) 高血圧(140/90以上)

(3) 血中善玉コレステロール(HDL)の低値

(4) 家族歴(兄弟・両親の中で、55才以下の男性または、65才以下の女性で冠動脈疾患になった人がいる)

(5) 年齢(男性45才以上、女性55才以上) 以上の5つです。

その他、ライフスタイルによる危険因子として、肥満、高カロリー・高脂肪食、運動不足があります。ただし、これらは下記の項目でグループ分類する時には含みません。

リスク別による血中コレステロール目標値

今回、3年前に発表されたリスク別血中コレステロール目標値の改訂が行われました。今回の改訂では前回同様、ずべての人に同じ目標値を設定するのではなく、その人の持つ冠動脈疾患リスクの程度に従って、リスク別グループをつくり、グループ毎の目標値を設定しています。

このリスクグループのどれに自分が属するのかを知るためには、まず前述の冠動脈疾患リスクの内2つ以上のリスクが自分にあるかどうかを調べます。2以上リスクファクターのある人は次に、http://hin.nhlbi.nih.gov/atpiii/calculator.asp?usertype=prof のウェブサイトで、10年以内に何パーセントぐらいの確率で心筋梗塞又は、冠動脈疾患による死、に至るかを知る「10年リスク」を計算します。

Age(年齢): years

Gender(性別): Female Male

Total Cholesterol(総コレステロール): mg/dL

HDL Cholesterol (善玉コレステロール): mg/dL

Smoke (喫煙): No Yes

Systolic Blood Pressure (収縮期血圧:高い方の血圧): mm/Hg

Currently on any medication to treat high blood pressure. (現在高血圧の薬を服用しているかどうか) No Yes

冠動脈疾患リスクがゼロないし1つの人は自動的に、低リスクグループに属するので、「10年リスク」を計算する必要はありません。

(1) 高リスクの人 ‐‐‐ 冠動脈疾患(注1)、冠動脈リスク相当(注2)のある人

悪玉コレステロール(LDL)の目標値は100mg/L以下です。

100以上の人は薬物療法の対象になります。又、高リスクの人で中性脂肪が200以上、HDLコレステロールが30以下の人は、他の薬を使用しての2剤併用薬物療法の対象になります。

高リスクの人で、以下の人は 「極めて高リスクの人」のグループに属します。 心血管系の病気と伴に、2つ以上の冠動脈疾患リスクを持つか、禁煙のようなコントロール可能のリスクをほとんど改善していない人、あるいは、肥満で中性脂肪が高いか善玉コレステロールが低いような人、あるいはかつて冠動脈疾患で入院をしたことがある人。

このグループに属する人の悪玉コレステロール(LDL)目標値は70以下です。

(2)中度高リスクの人 ‐‐‐ 冠動脈疾患リスクが2つ以上ある人で、10年リスクが10-20%の人。

悪玉コレステロール(LDL)の目標値は以前と同じ130以下ですが、治療オプションとして、100の目標値も設けられています。

(3)中程度リスクの人 ‐‐‐ 冠動脈疾患リスクが2つ以上で10年リスクが10%以内の人

悪玉コレステロール(LDL)の目標値は130以下です。

(4)低リスクの人 ‐‐‐ 冠動脈疾患リスクがゼロないし1つの人。

悪玉コレステロール(LDL)の目標値は160以下です。

(注1)冠動脈疾患 ‐‐‐ 心筋梗塞、不安定狭心症、安定狭心症、冠動脈形成術やバイパス手術歴、あるいは臨床的に著明な心筋虚血状態

(注2)冠動脈リスク相当 ‐‐‐ 冠動脈疾患以外の動脈硬化性疾患(末梢動脈疾患、腹部動脈瘤、内頚動脈疾患[一過性脳虚血、脳卒中、あるいは内頚動脈の50%以上の閉塞]、糖尿病、2つ以上冠動脈疾患リスクがあって10年リスクが20%以上

高コレステロール血症の治療

高コレステロール血症治療の基本は、TLC(治療的ライフスタイル改善)と呼ばれる生活様式の改善で、食事療法、運動療法、適正体重の維持によるコレステロールのコントロールです。これらは、単に悪玉コレステロール(LDL)を下げるだけではなく、他の冠動脈疾患のリスクもコントロールするので、冠動脈疾患の予防には極めて重要になってきます。65才以上の患者さんに対するアプローチも65才以下の人同様に、適応があればコレステロール集中治療の対象になります。今回の改訂では、このTLCと共に積極的に薬物治療を使用することによって血中コレステロール(特に悪玉コレステロール)の値を低く保つことの意義が強調されています。

サンディエゴの地元日系紙「ゆうゆう」の2004年8月1日号に掲載。