| 第40回 腰痛(Low Back Pain) |
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8割以上の人が一生の間に一度はなんらかの形の腰痛を経験すると言われていますが、その腰痛の原因は実に様々です。引越しの手伝いをした直後の23才の男性の腰痛と、乳癌の既往のある55才の女性の腰痛、あるいは骨粗しょう症があり転んで生じた75才の人の腰痛はその考える原因も治療も非常に異なってきます。
23才の男性の腰痛は筋肉性の腰痛の可能性が大ですが、椎間板ヘルニアや、もともと強直性脊椎炎や仙腸骨炎があって悪化した可能性も考えられます。55才の女性の腰痛は乳癌の転移が心配ですが、脊椎管狭窄症、骨の腫瘍などの可能性もあります。また、血尿や熱があれば、それぞれ腎結石や急性腎盂腎炎が原因かも知れません。女性の腰痛は、子宮内膜症など女性器との関係のある腰痛もあり要注意です。75才の人の腰痛は、転倒による脊椎の圧迫骨折をまず考えますが、それ以外にも、変形性脊椎炎、癌の転移、脊椎すべり症など原因になりうる基礎疾患は多様です。 このように単に腰痛といってもその原因は多く、原因にあわせた治療が必要になってくるので、まず腰痛の原因を追究することが腰痛の治療を始める上で重要になってきます。 腰痛の原因 ある調査によると、大人の腰痛の7割以上が筋肉性の腰痛で、1割が椎間板や堆骨及び周辺部の変形的変化(主に加齢による)によるもの、1割近くが椎間板ヘルニア、脊椎管狭窄症、堆骨の骨折によるもので、残り1割弱がそれ以外の原因によるものですが、大きくわけて物理的な原因(重度の側彎症、後彎症、脊椎すべり症、脊椎分離症など)、腫瘍(癌の転移、多発性骨髄腫、リンパ腫や白血病、その他の腫瘍)、感染(骨髄炎、細菌性椎間板炎、硬膜外膿瘍)、炎症(強直性脊椎炎、ライター病、炎症性腸炎、仙腸骨炎)、それに他の臓器の疾患によるもの(前立腺炎、子宮内膜炎、骨盤腔内炎症、腎尿管結石、腎盂腎炎、腎周囲膿瘍、腹部大動脈瘤、膵炎、胆嚢炎、消化性潰瘍など)がありますが、きわめて幅広い範疇の病気が含まれます。 症状によって原因を考える いわゆるぎっくり腰は、重いものを持ち上げた時や、腰をひねった時、足をふみはずした直後などに起こりますが、その大半は筋肉性の腰痛です。痛みが腰部や臀部の限られ、足のしびれや腰から足にかけて走るような痛みがなければ、筋肉性腰痛としてまずは考えます。大きな交通事故の後、高い所から落下して腰部を強打した後、高齢者の転倒後などは、腰椎の骨折をまず疑います。 足にしびれや感覚異常があると、椎間板ヘルニアなど筋肉性腰痛以外の腰痛を考えなければなりません。椎間板ヘルニアは咳、くしゃみで悪化することもあります。重度の椎間板ヘルニアは腫瘍と同じように排尿・排便障害を起こすことがあります。夜間寝ている時に痛みがあれば腫瘍の可能性もあります。下痢や血便に伴う腰痛は炎症性大腸炎が原因かも知れません。 腰痛は痛みの性状や痛みの程度といった腰痛そのものの症状のみならず、腰痛に伴う他の症状も大切になってきます。発熱、堆骨の痛みがあれば脊椎の感染や他の臓器の感染(腎盂腎炎など)が考えられます。 腰痛の検査 普通の筋肉性の腰痛の場合は腰のレントゲンや血液検査は不要ですが、50才以上の人、発熱や全身症状のある人、骨折や骨粗しょう症の可能性のある人、癌の転移や骨の病気の考えられる人などは検査が必要になってきます。特に神経症状が悪化する人、筋肉性腰痛や軽度の椎間板ヘルニア以外の腰痛の可能性があり、3週間以上の薬物治療などで良くならない人は、腰椎のレントゲン、CT(コンピューター断層撮影)やMRI(核磁気共鳴画像)による評価が必要になることがあります。 腰痛の治療 以前は、急性筋肉性腰痛の場合は安静が重要だと言われましたが、最近の研究では長期安静はむしろ回復に障害になるので、なるべく早期に日常生活レベルの身体活動をすべきだと薦められています。症状が激しく、安静によって症状が改善する場合に限り1-3日程度のベット上安静はかまわないとされていますが、原則的には日常生活になるべく早く復帰すると言うことでしょう。ただし、少なくとも1-2週間は重いものを持ち上げたり、腰をひねったり(ゴルフのように)、腰に振動をを与えることは避けてください。 イブプロフェン(Advil、 Motrin)や他の消炎鎮痛薬(市販薬では他にNaproxen)を1-2週間服用します。時には筋弛緩薬が使用される時がありますが、効果はまちまちです。腰痛が激しい時はバイコディン(Vicodin)のような強い鎮痛薬が必要になるかも知れません。筋肉性腰痛で特に痛みのひどい箇所のある人には、ステロイドと局所鎮痛薬のミックスの注射が著効を示す時があります。 腰部の牽引はアメリカではほとんど行われていません。超音波による深部を暖める方法、電気パルスによる刺激あるいは患部を冷やす方法なども人によって効果は様々なので、 全員に適応になるわけではありません。コルセットは堆骨の骨折などを除いて、筋肉腰痛などではほとんど使用しません。 腰痛体操は急性期の治療というよりは、腰痛の再発防止としての意味合いが強いですが、腰痛が長期化した時や慢性腰痛の場合にも効果があります。腹筋や背筋を徐々に鍛えていくわけですが、始めはイスに座って上半身を前後する方法や、仰向けに寝て片足交互に胸の方に上げていく方法が適当でしょう。徐々に運動量を増やしていくのがコツです。腰痛体操以外の全身運動(有酸素運動)も重要です。太り気味の人はまず体重を減らすことでしょう。 カイロプラクティックや針治療は、特定の人には著効を示すことがありますが、必ずしも誰に対しても同じように効果があるわけではないので、3-4週間の治療でまったく改善のない時は診断を疑うか他の治療法に変える必要があります。腰痛の多くの原因が筋肉性なので、自己判断でカイロプラクティックや鍼灸治療、マッサージを受けても大抵の場合は大丈夫ですが、椎間板ヘルニアや堆骨骨折であまり腰部を治療で動かさない方がいい場合もありますので、そういう治療を受けられる前か、2-3週間の治療でまったく改善のない時、改善をしてもまたすぐに悪化する時は主治医に一度相談してください。また、以下のように「気をつけたい腰痛」の項目にあてはまる人は、様々な治療方を考慮する前に一度主治医を受診してください。 気をつけたい腰痛 大きな事故後、中高年者の事故や転倒後、骨粗しょう症や骨の病気のある人の事故や転倒後には堆骨の骨折が考えられます。 50才以上20才以下の人、以前になんらかの癌の既往のある人、発熱・悪寒・体重減少などの症状のある人、最近尿路感染症などの細菌性感染症に罹患した人、静脈注射による違法薬物使用者、HIV感染者・ステロイド剤長期服用者・コントロールの十分でない糖尿病患者など免疫の低下した人、横臥や夜間に痛みがひどくなる人は堆骨の腫瘍や感染が考えられます。 排尿や排便のコントロールが異常になってきた人、下肢に激しい痛みや徐々にひどくなる痛みのある人は、腫瘍、重度の椎間板ヘルニアなどが考えられます。 以上の腰痛の人はすぐに主治医にご相談ください。 サンディエゴの地元日系紙「ゆうゆう」の2003年11月1日号に掲載。
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